理事会決議を経ずに議案が総会に上程された!その総会決議の有効性は…?

理事会決議を経ずに議案が総会に上程された!その総会決議の有効性は?

 マンション管理組合・理事会の皆様、こんにちは。

 今回は、管理士会の勉強会でテーマとなった「理事会決議を経ていない(かもしれない)議案が総会に上程・可決されたら?」という問題についてです。

 またも固い話題ですが、もしかしたらあなたのマンションでも過去に行われていたかもしれないですよ…?

 なお、非常に長いため、「全部読んでられない」という方は、↓の目次から「5.【本題】理事会決議を経ていない議案についての総会決議は無効になるか」をクリックしてご覧ください。

問題の所在

 「理事会決議を経ていない(かもしれない)議案が総会に上程・可決された」という問題については、

①理事会決議を経ていない議案を上程する総会の招集が有効かという観点と

②理事会決議を経ていない議案に関する総会決議は有効かという観点

の2つの見方があります。

 以下、まずは、「総会の招集方法」と「議案の決め方」の原則についておさらいします。

総会の招集方法と議案の決め方の原則

総会の招集方法(理事長が独断で招集できるか)

 通常総会(年1回の定期総会)の招集権(招集義務)を有しているのは理事長です。

 臨時総会は、理事会決議を経た理事長(標準管理規約(単棟型)42条4項)、例外として、組合員総数の5分の1以上の同意を得た組合員(同44条2項)が招集することができます。

(総会)
第42条 管理組合の総会は、総組合員で組織する。
2 総会は、通常総会及び臨時総会とし、区分所有法に定める集会とする。
3 理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後2か月以内に招集しなければならない。
4 理事長は、必要と認める場合には、理事会の決議を経て、いつでも臨時総会を招集することができる。
5 総会の議長は、理事長が務める。

標準管理規約(単棟型)(令和3年6月22日 国住マ第33号)

 そのため、通常総会(定期総会)については、標準管理規約上、理事会決議を経ることなく開催できます。

 これは、年1回の集会=通常総会の開催は、理事長=管理者としての法定の義務であるため(区分所有法34条2項)、通常総会の開催に理事会決議を要するとすると、理事の多数と対立した場合にそれだけで理事長(管理者)の義務を果たせなくなるおそれが生じますから、やむを得ないことです。

 また、区分所有法では、法人でない管理組合には理事会というものが想定されていませんから、集会の招集権は管理者にあり(同法34条1項)、「区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる」ともされています(同法36条)。

(集会の招集)
第34条 集会は、管理者が招集する。
2 管理者は、少なくとも毎年1回集会を招集しなければならない。
3 区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
4 前項の規定による請求がされた場合において、2週間以内にその請求の日から4週間以内の日を会日とする集会の招集の通知が発せられなかつたときは、その請求をした区分所有者は、集会を招集することができる。
5 管理者がないときは、区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。

(招集手続の省略)
第36条 集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。

建物の区分所有等に関する法律

 以上のとおり、少なくとも通常総会(定期総会)は理事長の権限で招集ができ、また、管理者(=理事長)は法定の集会招集権原を有していますから(区分所有法34条1項)、管理規約次第では臨時総会も理事会決議なく理事長の権限で招集できる場合があります。

議案の決め方(理事長が独断で決められるか)

 他方で、総会に上程する議案については、標準管理規約(単棟型)54条1項で、「理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。」と定めており、その4号で「その他の総会提出議案」が理事会決議事項であることを明らかにしています。

(議決事項)
第54条 理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。
 一 収支決算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案
 二 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止に関する案
 三 長期修繕計画の作成又は変更に関する案
 四 その他の総会提出議案
 五~十一 (略)
2 (略)

標準管理規約(単棟型)(令和3年6月22日 国住マ第33号)

 つまり、標準管理規約では、総会に上程する議案は、すべて理事会決議事項です。

 他方で、区分所有法では、繰り返しになりますが、法人でない管理組合には理事会というものが想定されていませんから、議案をどのようにして決めるかについては定めがありません。

 もっとも、上記のとおり、管理者には集会招集権がありますから、その前提として当然に議案提案権も有していると考えられます(東京地裁平成7年10月5日判決)。

 ただし、原則として招集通知の際に通知した事項についてしか決議はできないこととなっており(区分所有法法37条1項)、例外として、普通決議事項であれば「規約で別段の定めをすることを妨げない」とされていますので(同法37条2項)、管理規約で定めれば招集通知の際に通知した事項以外についても決議をすることができます。

(決議事項の制限)
第37条 集会においては、第35条の規定によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議をすることができる。
2 前項の規定は、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項を除いて、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3 前2項の規定は、前条の規定による集会には適用しない。

建物の区分所有等に関する法律

 なお、共用部分の重大変更(区分所有法17条1項)、規約の設定・変更(同法31条1項)といった一定の重要な議案については、その議案の要領も通知しなければならないことになっています(同法35条5項)。

(招集の通知)
第35条 集会の招集の通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。
2 専有部分が数人の共有に属するときは、前項の通知は、第40条の規定により定められた議決権を行使すべき者(その者がないときは、共有者の一人)にすれば足りる。
3 第1項の通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかつたときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすれば足りる。この場合には、同項の通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなす。
4 建物内に住所を有する区分所有者又は前項の通知を受けるべき場所を通知しない区分所有者に対する第1項の通知は、規約に特別の定めがあるときは、建物内の見やすい場所に掲示してすることができる。この場合には、同項の通知は、その掲示をした時に到達したものとみなす。
5 第1項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第17条第1項、第31条第1項、第61条第5項、第62条第1項、第69条第1項又は第69条第7項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。

建物の区分所有等に関する法律

 しかし、標準管理規約上は、その47条10項で「総会においては、第43条第1項によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議することができる。」と区分所有法37条1項と同旨の内容を定めるのみで、招集通知で通知した事項以外の事項について決議をすることができるような定めは置かれていません。

 したがって、標準管理規約と同様の定めをしている管理組合においては、①理事会で決めた議案で、かつ、②招集通知において通知した議案についてのみ、総会で決議ができる、ということになり、理事長が独断で議案を決めることはできません

総会の招集方法と議案の決め方の一応の原則

 以上のとおり、標準管理規約に準じた内容の管理規約を有する管理組合では、①通常総会(定期総会)は理事長が、②臨時総会は理事会決議に基づき理事長が招集でき、③いずれの総会についても議案は理事会決議で決め、④その議案のうち招集通知において通知した議案についての総会で決議ができる、というのが一応の原則となります。

理事会決議を経ずに上程されたかどうか、どうやって判断するか。

理事会決議の有無の確認

 まず、一組合員として、総会議案に関する理事会決議の存在に疑問が生じた場合、理事会決議の有無はどのようにして確認したらよいでしょうか。

 これは、理事会のメンバー(理事・監事)以外は、理事会議事録で確認するしかありません。

 では、理事会議事録はどのようにしたら確認できるのでしょうか。

 標準管理規約では、理事会議事録は、理事長が保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、これを閲覧させなければならないとなっていますので(標準管理規約53条4項が準用する49条3項)、理事長に対して書面で閲覧請求をすることで閲覧することができます(ただし、管理組合によって規約で別の定めをしている場合もあります。)。

 理事会議事録を閲覧したところ、総会に上程された議案に関する理事会決議の記載があれば問題ありませんが、その記載がない場合はどうしたらよいでしょうか。

 議事録に記載がない=直ちに理事会決議がない、と判断してもよいでしょうか。

「議事録に記載がない=理事会決議がない」か?

 この点、「議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載」しなければなりませんから(標準管理規約49条2項)、議事録に記載のない理事会決議はない、と考えるのが素直な考え方です。もし、理事会決議を経ずに総会議案が上程されたことをもって総会決議の無効や取消しを裁判で求めていくのであれば、理事会議事録への記録がないことが一つの証拠となることは間違いありません。

 もっとも、もし、理事会として総会に上程したい内容が、正式な議事録には残したくないような内容であった場合はどうでしょうか。例えば、管理会社に対する管理委託費の減額要求や、管理会社のリプレース(入替え)を計画している場合が考えられます。

 例えば、「うちなら安く管理しますよ」と理事会に営業をかけてきた管理会社(以下「B社」といいます。)があったとすれば、B社からは、「今の管理会社に知られるとリプレースを妨害されるかもしれませんから、直前まで悟られないように、総会招集通知にいきなり載せちゃいましょう。」という入れ知恵がされる可能性はあり得ます。

 その結果として、「理事会では了承している(事実上の理事会決議はある)が、理事会議事録には載らない」総会議案が出来上がる、ということは一応あり得る話です※1

※1 なお、私としては、このような場合にも真っ当に理事会決議をすればよいと考えますし、それによって管理会社のリプレースに支障が出るとも思いません。寧ろ、管理会社との信頼関係の観点からは、管理委託費の減額要求を背景としたリプレースの算段をするにあたっては、減額の実現性や減額した場合に削減されるサービス内容について管理会社と膝を突き合わせて議論をして結論を出すべきだと考えますし、そういった議論の結果として総会にリプレースを諮られるのであれば、管理会社としてもこれを妨げるような動きをする積極的なメリットがないためです。

 このような場合に、(例えば管理会社のリプレースに関する議案が)理事会議事録には記載されていないが、総会の議案として上程された場合、その議案に関する決議は無効になるでしょうか。

総会決議が無効となる事情及びその程度について

 区分所有法には、集会(総会)の決議が無効または取消となる要件について、何らの定めもありません。

 他方で、会社法には、株主総会決議が無効または取消となる要件(及び取消としない要件)が定められており、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律にも社員総会決議が無効または取消となる要件(及び取消としない要件)が定められています。

(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第830条 株主総会…の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる

(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第831条 次の各号に掲げる場合には、株主等…は、株主総会等の決議の日から3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主…又は取締役…、監査役若しくは清算人…となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる

会社法

(社員総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第265条 社員総会又は評議員会…の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2 社員総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる

(社員総会等の決議の取消しの訴え)
第266条 次に掲げる場合には、社員等は、社員総会等の決議の日から3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより社員等…となる者も、同様とする。
一 社員総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき
二 社員総会等の決議の内容が定款に違反するとき
三 社員総会の決議について特別の利害関係を有する社員が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき
2 前項の訴えの提起があった場合において、社員総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

 そのため、裁判所は、管理組合の総会についても、これらの法律の定めを暗黙の前提としながら、株主総会や社員総会であれば無効または取消となるような事情がある場合で、違反が重大でないとは言えず、決議に影響を及ぼしたと言えない場合に、管理組合の総会も無効とする判断をしています(ただし、会社法等での判断方法と完全に一致するわけではありません。※2)。

※2 会社法等で決議の「無効」と「取消」が区別されているのは、「無効」については出訴期間の制限がない(決議後いつでも無効確認を求める裁判を起こせる)のですが、「取消」については出訴期間の制限(3か月以内)があり、決議から3か月を超えると取消事由に該当する事情があっても裁判で取り消しを求めることはできないようになっているためです。他方、上記のとおり、区分所有法には集会決議の無効や取り消しに関する定めがなく、したがって当然に出訴期間の制限もありませんので、「無効」と「取消」を区別する必要(意味)がありません。そのため、管理組合の総会決議の争いについては、「無効かどうか」で判断されています。

総会決議が無効となったケース1

 例えば、総会決議が無効となった非常に分かりやすいケースとして、東京地方裁判所令和4年2月28日判決(令和3年(ワ)第21023号事件)があります。

 この事件は、組合員37名(共有者は1名とする)で構成される小規模マンションの理事会において、

① 令和3年5月13日、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言が発令されていることから、組合員が現実に集合しての通常総会の開催は困難であるとの判断から、通常総会を文書総会で開催するとした(なお、令和2年度通常総会も同様の方法で行っていた。また、書面決議とする理事会決議のあった旨の記載は議事録にはない。)。

② 令和3年5月中旬から下旬にかけて組合員に対し文書総会の議案書及び議決権行使書を送付した。

③ 令和3年5月28日にまでに組合員37名のうち32名から議決権行使書が提出されたが、うち1名の議決権行使書には「文書総会となっているが、全てに必要な重要コメントが一切ない。文書総会のあり方を調べてからにしてほしい」との記載がされ、議案に対する賛否の記載がなく、複数の議案について反対の組合員もあった。

④ 理事長、副理事長らは、上記③の「文書総会のあり方を調べてからにしてほしい」と記載した組合員に対し、令和3年5月20日から21日にかけて、新型コロナ感染症対策のため、書面による決議を実施したい旨説明した上、各議案の補足説明も直接行い、同人から書面による決議を実施することにつき承諾を得た上で、各議案に賛否の記入をしてもらった。

⑤ 令和3年5月28日、臨時理事会が開催され、本件文書総会の議決権行使書の集計作業がされ、その結果、すべての議案につき過半数の賛成が得られたとして承認・可決された(と扱われた)。

というもので、この文書総会での決議とされた全決議について、区分所有者の一人が、区分所有法45条1項に違反するとして無効確認または取消を求めた事件です。

 そもそも、総会を文書で行うことができるのかというと、区分所有法には次の定めがあります。

(書面又は電磁的方法による決議)
第45条 この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。
2 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす
3 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。
4 第33条の規定は、書面又は電磁的方法による決議に係る書面並びに第一項及び第二項の電磁的方法が行われる場合に当該電磁的方法により作成される電磁的記録について準用する。
5 集会に関する規定は、書面又は電磁的方法による決議について準用する。

建物の区分所有等に関する法律

 つまり、Ⓐ区分所有者全員の承諾がある場合には、書面による総会決議ができ(区分所有法45条1項)、また、Ⓑ区分所有者全員の書面による合意ができた場合には、その合意ができた事項は書面による総会決議と同じ効力をもつことになります(同法同条2項)。

 ここで少しややこしいのは、区分所有法45条1項による書面による総会決議をする場合には

ア 書面による決議をすることに関する区分所有者全員の承諾

イ その承諾を前提とした書面による決議の実施(普通決議であれば、管理規約に定めがあれば提出数=総会出席者数&議決権総数の過半数での決議)

の2段階の手続が必要になる、ということです。

 この点、この東京地方裁判所令和4年2月28日判決の事例では、アについて、そもそも、書面による決議をすることについて区分所有者全員の承諾を得ていません(勝手に理事会で決めています。)。【瑕疵】

 もっとも、この問題については、議決権行使書面を全員分集められれば、事実上全員が書面による決議に応じたとして、事後的に手続きの瑕疵(不備)を解消できた可能性があります。

 しかし、上記③のとおり、本件では、組合員37名中32名しか議決権行使書面を出していません。そのため、書面による決議をすることについて、事後的にも区分所有者全員の承諾を得たとは言えません。【瑕疵の治癒なし】

 そのため、東京地裁は、次のように述べて、この令和3年5月通常総会の決議はいずれも無効であると判断しました(原告が総会決議の不存在確認を求めていなかったため、傍論となっていますが、そもそも適法な招集手続が行われていないから不存在でしょう、とも認定されています。)。

区分所有法45条1項「が書面又は電磁的方法による決議の実施に区分所有者全員の承諾を必要とした趣旨は、…討議を省略することによって各区分所有者に不利益が及ぶおそれがないようにするところにある。そして,集会を招集する者が区分所有者全員の承諾を得るためには、集会を開催せずに書面による決議を実施すること又は電磁的方法による決議を実施することを示して承諾を得る必要がある。」

令和3年通常総会の各決議に関する上記の【瑕疵】&【瑕疵の治癒なし】は、「区分所有法45条1項に違反するものであり、同条項の趣旨に鑑みれば、区分所有者の討議の機会を奪うという重大なものである。本件マンションの区分所有者37名中32名から議決権行使書が提出されているが、これは、被告が同区分所有者に対して書面による決議の実施につき承諾を求めることなく、すでに決まったこととして、書面による決議を実施する旨通知した後に送付した議決権行使書に、区分所有者が記入して返送したものであるから、これをもって、上記瑕疵が治癒されたり軽微なものとなったりするということはできない。
 したがって、本件各決議に係る上記瑕疵は無効事由に当たるというべきである。」

「なお、上記認定事実によれば、被告においては、外形的には令和2年及び令和3年に総会が開催されたこととされているが、区分所有法45条1項は、集会を開催することなく書面又は電磁的方法による決議をする場合について定めたものであり、また、上記総会については招集手続が履践されたものでもないから、上記総会は、実質的には開催されたものと認めることができない。」

東京地裁令和4年2月28日判決(令和3年(ワ)21023号事件)

 会社法や一般法人法では、株主総会決議等が「無効」となるのはその決議の「内容が法令違反」の場合であり、招集手続の法令違反は決議取消の事由となるだけですが、上記※2のとおり、管理組合の総会については「無効」と「取消」の区別がありませんので、「招集手続の法令違反の程度が重大」であることをもって管理組合の総会決議を「無効」と判断しています。

総会決議が無効となったケース2

 総会決議が無効となったケースをもう一つ挙げます。東京高裁平成7年12月18日判決(平成6年(ネ)第5172号事件)です。

 この事件では、とあるマンション管理組合法人で平成元年2月19日に行われた定時総会において、規約の改正が議案として上程されましたが、招集通知には「第5号議案 規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項」とだけ記載されており、どの条項をどのように改正するかについての記載(議案の要領の記載)がされていませんでした

 しかし、定時総会では議決権数657に対し、委任状を含む議決権数507の賛成によって、規約の改正が決議された、というものです。

 そのため、当該マンションの元理事長であった原告が、この規約改正決議は区分所有法35条5項に反するため無効であることを確認するよう求めた事件です。

 上記のとおり、区分所有法35条5項は、規約の設定・変更(同法31条1項)といった一定の重要な議案については、その議案の要領も通知しなければならないとしています。これは法に定められた手続きですから、規約の変更議案について招集通知に議案の要領を載せないと、上記の「総会決議が無効となったケース1」と同様に、招集手続の法令違反となります。

 これについて、原審である東京地裁平成6年11月24日判決は、次のとおり、大要、「区分所有法35条1項違反の招集通知は軽微な瑕疵であるし、原告以外の組合員が議案の要領の通知がないことについて異議を述べていないから決議は有効」としました。

区分所有法35条1項について、「こうした規定を設けた趣旨は、区分所有者の権利義務に重大な影響のある特に重要な事項については、会議の目的たる事項の通知(同条一項)だけでなく、議案の具体的な内容も通知させることとして、議決権者らに予め議案の内容を検討できるようにして議事を充実させるとともに、集会に出席しない区分所有者も書面によって議決権を行使することができるようにする点にあると解される。したがって、少なくとも賛否の検討が可能な程度には議案の具体的内容が記載されていなければ、議案の要領の通知があったものとはいえない。本件総会(一)の招集通知書には、第五号議案として、「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」と記載されていただけで(争いがない)、議案の具体的内容が記載されているとはとてもいえないから、右記載をもって議案の要領の記載があるとは認められない。したがって、本件決議(一)2は、議案の要領の通知のない議案についての決議というべきである

 ところで、議案の要領の通知がない場合の決議の効力については規定がないが、前述のように右通知の趣旨が議事の充実と書面投票をする組合員の便宜を図る点にあり、議決権行使の保障という観点からみて不可欠なものではないことからすれば、右通知の欠缺は、基本的には軽微な瑕疵と考えるべきであり、法的安定性を犠牲にしてまで常に決議の無効事由になると解するのは相当ではなく、決議に重大な影響を及ぼすべき特段の事情が認められる場合を除いては、無効事由とならないものと解すべきである。本件の場合、原告自身は本件決議(一)2が行われる際に、事前に組合員に説明する必要があったのではないかと疑問を呈し、疑問を呈したことを議事録に記載するように要求したものの(乙一)、原告以外の組合員からは議案の要領の通知がなかったことに関し、決議前あるいは決議後相当期間内に異議が述べられた形跡も認められないのであって、議案の要領の通知の欠缺が決議に重大な影響を及ぼすべき特段の事情があったものとは認められないから、右手続の瑕疵は、本件決議(一)2の無効事由とならない。」

東京地裁平成6年11月24日判決(平成元年(ワ)第6185号事件・平成2年(ワ)第6306号事件・平成3年(ワ)第1017号事件)

 この判断を不服として、原告が控訴したところ、東京高裁は、次のとおり述べて決議を無効としました。

 区分所有法35条5項「の趣旨は、区分所有者の権利に重要な影響を及ぼす事項を決議する場合には、区分所有者が予め十分な検討をした上で総会に臨むことができるようにするほか、総会に出席しない組合員も書面によって議決権を行使することができるようにし、もって議事の充実を図ろうとしたことにあると解される。右のような法の趣旨に照らせば、右議案の要領は、事前に賛否の検討が可能な程度に議案の具体的内容を明らかにしたものであることを要するものというべきである

 これを本件についてみるに、本件総会(一)の招集通知には、本件決議(一)2に対応する第五号議案として、「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」と記載されているにすぎないところ(当事者間に争いがない。)、右をもって議案の内容を事前に把握し賛否を検討することが可能な程度の具体性のある記載があるとは到底いうことができない

 そうすると、本件決議(一)2の決議事項については、議案の要領の通知に欠けるから、その決議には区分所有法35条5項所定の総会招集手続に違背した瑕疵があるといわざるを得ない。そして、右議案の要領の通知を欠くという招集手続の瑕疵がある場合の決議の効力について検討するに、法が議案の要領を通知することとした趣旨は前示のとおりであるから、議案の要領の通知の欠缺は、組合員の適切な議決権行使を実質上困難ならしめるものというべきであって、これをもって軽微な瑕疵ということはできない。とりわけ、本件決議(一)2のうちの規約44条(議決権)の改正は、従来、最小区分所有単位を一票とし、その所有する専有面積比割合により議決権の票数を算定していたものを、所有戸数、所有専有面積のいかんにかかわらずすべて一組合員一票にするというもので、組合員の議決権の内容を大幅に変更し、複数の票数を有していた組合員に極めて大きな不利益を課すことになる制度改革であるから、事前に各組合員に右改正案の具体的内容を周知徹底させて議決権を行使する機会を与えるように特に配慮することが必要である。しかし、本件においては、区分所有者は右通知において議決権条項の改正が審議され、決議されることは認識できたものの、その具体的内容を把握できなかったため、右のような重大な議決権内容の変更を伴う規約改正が行われることを事前に知ることができなかったものであり、その結果、58票を有していた杉本建設、24票を有していた日刊工業、2票を有していた横山勝男においては、その議案の重要性を認識することなく被控訴人に対し、川村理事長に一任する旨の委任状を提出したこと、しかし、右決議後まもなく右内容を控訴人から知らされて初めて決議内容の重大性を知って驚き、事前に知っていれば理事長に一任する旨の委任状を提出することはなかったとして、控訴人を通じて被控訴人に対し、委任を取り消す旨申し出ていたこと…が認められる。そして、本件決議(一)2の議決が成立するためには区分所有者及び議決権数の各4分の3以上の多数の賛成が必要とされるところ(区分所有法31条1項)、証拠…によれば、右各組合員らが一任の委任状を提出せず、これらの議決権数が賛成票に算入されなければ、議決権数657票の4分の3である493以上の賛成票を集めることはできず、右決議は可決されなかったことが明らかである

 以上の事実を勘案すれば、本件決議(一)2の決議については、重大な手続違反があり、これを無効と解するのが相当である。」

東京高裁平成7年12月18日判決(平成6年(ネ)第5172号事件)

 長いため要点をまとめると、①東京地裁とは異なり、規約の変更についての要領を欠く(区分所有法35条5項違反の)招集通知は軽微な瑕疵ではないと判断した上で、②議案の標題だけを見て議長へ一任する内容の委任状を提出した区分所有者のうち3名(合計84票分)が決議後まもなく委任を取り消すと申し出ていたこと、③もしこの84票について委任がなされていなければ、賛成者は507-84=423票で、規約の変更に必要な493票に届かないことから、議案の要領を欠く招集通知が決議に与えた影響が重大である=重大な手続違反があるから、決議は無効である、と判断したものです。

 このように、裁判所は、手続違反が法令違反か、規約違反か、また、その違反がどれほど区分所有者(組合員)の意思決定に影響を及ぼし得るか(及ぼしたか)、によって、決議が無効となるかどうかを判断しています。

総会決議が有効とされたケース

 他方で、東京地裁平成19年2月1日判決(平成17年(ワ)第5116号事件・平成17年(ワ)第11774号事件)では、招集通知を欠いた状態で開催された管理組合総会での決議が有効とされました。

 この事案は先の2つの事案と比べると少し特殊です。

① とあるマンション管理組合の理事長にY1氏が選任さたが、その選任当時、Y1氏の区分所有権はY2会社により競落されており、Y1氏は既にそのマンションの区分所有者ではなくなっていた。

② ただし、Y1氏はY2会社の従業員であり、Y2会社は、管理組合に対し、Y1氏を代理人とする旨の通知をしていた。

③ 副理事長Aをはじめとする組合員23名は、Y1氏の理事長・理事解任を目的として、Y1氏に対し、区分所有法34条3項及び管理規約に基づく総会の招集請求をした。

④ しかし、Y1氏は所定の期間内に総会の招集通知をしなかったため、副理事長らが区分所有法34条4項及び管理規約に基づき、Y氏の理事解任及び新役員3名を選任する議案を目的とする総会を招集・開催した

⑤ この管理組合は、組合員総数42名、定足数21名、議決権総数49個、定足数(議決権)25個であったところ、出席者4名、委任状2名、議決権行使書による議決権行使者24名(議決権数33個)全員の賛成によりY氏の理事解任、新たな理事選任等を決議した

⑥ また、招集通知には記載されていなかったが、管理会社BがY1氏と癒着しており、会計報告等に応じないこと等を理由とする管理委託契約の破棄についても賛成の決議が行われた。

⑦ ⑤⑥を踏まえ、新理事長Aらは、管理会社Bに対し、Y1氏の理事及び理事長の解任、新理事、理事長等の選任を通知し、管理組合の一般管理費及び修繕積立金等の預金通帳、印鑑、過去5年間の原告組合の組合員の管理費等の入金一覧表と、その資料の提出、過去5年間の収支状況報告を行うように通知する旨の内容証明郵便を送付したが、管理会社Bはこれを受領せず、何らの対応もしなかった。そのため、新理事長Aらは、管理会社Bとの管理委託契約を解除する旨の通知をした。

⑧ 他方、管理会社Bは、管理委託費の引落が行われなくなったことから、管理業務を停止した。

 このような経緯を経て、管理組合が、管理会社Bに対する管理委託費の一部の不当利得返還請求及び管理会社B代表取締役に対する不法行為に基づく損害賠償請求をしたところ、その反訴として、Y1氏が管理組合に対して上記⑤の総会決議の無効確認を、管理会社Bが解除までの管理委託費等の請求をしたのがこの事件です。

 非常にややこしい事件ですが、ここでは、Y1氏からの反訴部分である管理組合に対する上記⑤の総会決議の無効確認に対する判断についてのみ記載します。

 Y1氏は、上記⑤の総会決議が無効である理由として、以下の3つの理由を挙げました。

㋐ 招集通知がY2会社に届いていない。

㋑ 他の役員2名の辞任届をY1は受領していないから、Y1の解任を除き、欠員がないにもかかわらず「新理事3名の選任」との内容は議案とし得ない。

㋒ 委任状・議決権行使書のうち13通が総会招集のための書面の流用であり、無効である。

  こういった主張について、裁判所は次のとおり述べて、決議は有効であると判断しました。

【理由①について。】
 招集通知について「Y2会社への送付があったとは認められない。」
しかし、「そもそも、本件臨時総会は、Y1が臨時総会招集請求を受けながら、法及び本件規約の所定の期間内に招集通知を発送しなかったために開催されることになったものであり、同期間内に通知を発送して総会を開催して真実を説明することが可能であったものである。
 そして、区分所有者においては、Y1とAとの間でY1の役員資格等について紛争があったことを認識し、実際にY1の反論の書面が配布されていながら、区分所有者23名が本件臨時総会の開催に賛同し、同総会で、議決権総数49のうち、議決権33の一致により決議がされたのであるから、Y1が本件臨時総会に先立って事実を説明することができなかったことが区分所有者の意思決定に重大な影響を及ぼしたものとは認められない
 以上の事情にかんがみると、Y2会社に本件臨時総会の招集通知が送付されなかったことをもって決議の無効事由となるほどの重大な瑕疵があったとはいえない。」

【理由②について。】
役員2名は、「Aらによる本件臨時総会通知前に原告組合あての辞任届を作成し、これをAに提出していたところ、Y1がY2会社の従業員として役員資格を有していた(のであるから)、理事長であるY1に提出されていないことから、辞任届のAへの提出をもって直ちに両名の辞任の効力が生じたとは認められない。
 しかし、両名の辞任の意思は明らかで、これを対外的にも書面にして明らかにしている上、うち1名は、本件臨時総会において、自らの辞任を前提に、新理事選任に賛成する議決権利行使を書面によって行っている…から、この時点では理事辞任の意思を原告組合に対して明確にしているといえること等にかんがみると、本件臨時総会において2名を欠員と扱い、当該欠員分の新役員を選任したことをもって、本件臨時総会の決議の無効事由となるほどの瑕疵があったとは認められない。」

【理由③について。】
「本件臨時総会開催要求通知の段階で収集した委任状等は、所定の要求事項を議案とする臨時総会が開催されることを前提としており、その後、所定の要求事項を議案とする臨時総会が開催された場合には、委任状を有効に利用させていただきたいと通知し…、Y1が所定の期間内に臨時総会を開催しなかったことから、Aらが臨時総会を開催し、その通知においても、前もって提出してもらった委任状を本件臨時総会で利用させてもらう旨通知している…ところ、委任状等を提出した区分所有者らが委任状等の撤回を申し入れたことは認められず(弁論の全趣旨)、委任状等を提出した区分所有者の意思に反して議決権が行使されたとは認められない。
 確かに、臨時総会開催要求時には、Y1の解任と新理事1名の選任だけが議題となっていたのに対し、本件臨時総会では理事3名の選任が行われたが、Aらは、新理事3名選任を議案として平成16年12月19日付け臨時総会開催通知書を区分所有者に送付しているのであるから、委任状等を提出した区分所有者は理事3名の選任が議案であることを認識していたと認められ、それでも委任状等の撤回をしていないのであり、事後的にも、委任状等の有効性に関して問題化した事実も認められないのであるから、委任状等が委任者の意思に反して無効であるとは認められない
 以上のように,本件臨時総会において,委任状等の流用があったが,これをもって委任状等による本件臨時総会における決議が無効であるとはいえない。」

【結論】
 以上の認定、説示のとおり、Y1を理事及び理事長から解任し、D、E及びFを役員に選任する旨の本件臨時総会決議は無効であるとは認められない。

東京地裁平成19年2月1日判決(平成17年(ワ)第5116号事件・平成17年(ワ)第11774号事件)

 以上のとおり、Y1氏が主張した問題点は、いずれも手続的瑕疵にはあたるものの、それぞれ軽微であるし、決議の結果に影響を与えたとも認められないことから、決議が無効とは認められませんでした。

【本題】理事会決議を経ていない議案についての総会決議は無効になるか

 ようやく本題です。ここからお読みになる方もいらっしゃるでしょう…

 もし、あなたの住むマンションの定時総会で、「A社との管理委託契約を更新せず、B社と管理委託契約を締結する件」との議案が上程され、委任状・議決権行使書面を含む賛成多数で承認されたが、あなたはA社で満足しており、B社への変更が必要ないと考えていた、だから議案にも反対をしたとしましょう。

 そのため、あなたは「前期理事会でどういう議論がされた末でこのような議案が上程されたのだろうか?」と気になり、前期1年分の理事会議事録を閲覧したところ、その中には一度もA社との管理委託契約の見直しに関する議論がなされた形跡がなく、「A社との管理委託契約を更新せず、B社と管理委託契約を締結する件」との議案を定時総会に上程するとの決議がなされた形跡もなかったとしましょう。

 このとき、あなたはどう行動すべきでしょうか。

 少なくとも、すぐに「裁判だ!」と動くべきではありません。少なくとも、以下の事項について確認・見直しをするべきです。

裁判を検討する前に確認すべき事項

1.理事会議事録に記載はないが、本当に理事会で議論・決議がされていないのだろうか?

 この点については、前期理事に直接確認するべきでしょう。もし、前期理事から、「管理会社のフロントさんが居る前では話がしにくかったから、フロントさんのいる理事会を終えた後に、この点だけをみんなで話し合ってたんだよ。」なんて話が出てきたときには、そもそも手続的瑕疵自体が存在しない、とも考えられます。

 他方で、もし、前期理事から「管理会社を変えよう、って話は一度出たことはあったんだけどね。でもそれから理事会で話すこともなく、総会の前になっていきなり理事長が『管理会社を入れ替えるか総会で決める』って言い出してね。『入れ替える理由が分からない』って反対する理事もいたんだけど、理事長が頭固いもんだから、話にならなくて。理事会では決められないままだったんだけど、招集通知には載っててビックリしたよ。でも最終的には組合員の皆さんの判断で決まったことだから、いいんじゃないかな。」なんて話が出た時には、規約違反の手続的瑕疵はありそうです。

 手続的瑕疵がありそうだ、となると、それが重大か(組合員の判断過程や決議の成立に影響を及ぼしたか)が問題になります。そこで、次の点の確認が必要です。

2.総会招集通知に書かれた議案の内容は適切で、また、議案の要領・上程理由の記載や根拠資料の提供があるか?

 思考順序としては2番目になりますが、実際の確認手順としては最初になるでしょう。あなたが反対をした「A社との管理委託契約を更新せず、B社と管理委託契約を締結する件」との議案について、招集通知とともにどのような資料が提供されていたでしょうか。

 ここで、「A社との管理委託契約を更新せず、B社と管理委託契約を締結する件」との議案は、区分所有法35条5項で議案の要領まで通知する必要がある事項とはされていませんから、議案の要領が記載されていなくとも、その点では手続に瑕疵はありません。

 もっとも、管理会社の変更であれば、共用部分の維持管理において組合員の日常生活にも直結しますし、管理費の額にも影響しますから、標題だけでは問題があるでしょう。議案を上程した理事会(理事長)としては、なぜA社ではダメなのか(A社の何がダメなのか)、管理内容や金額で問題があればその点についてA社に申入れや協議をしたのか、その問題点についてB社であれば解消できるのか、A社の問題点以外でB社に変更した場合にどのような点でA社と異なるようになるのか、管理委託費はどうなるのか等について、他の組合員に説明をすべきですし、その説明の根拠となる資料を提供すべきでしょう。

㋐ 議案の要領・上程理由の記載や根拠資料の提供がある場合

 そして、このような説明と根拠資料が招集通知とともに提供されている場合は、仮に議案の上程について理事会決議がなくとも(=手続的瑕疵があっても)、その上位機関(最高意思決定機関)である総会において組合員が十分な資料に基づき判断した内容及び結果について、理事会決議を欠いているという手続的瑕疵が影響したとは考えにくく、決議の無効を主張することは困難でしょう

㋑ 議案の要領・上程理由の記載や根拠資料の提供がない場合

 このような説明や根拠資料の提供がない場合、次は総会での議案説明と質疑応答の内容が問題になります。

 総会での議案説明と質疑応答によって、組合員が適切な判断をするに足る情報が提供されていれば、上記㋐と同様、知事会決議を欠いているという手続的瑕疵が組合員の判断に影響したとは考えにくいですから、決議の無効を主張することは困難でしょう。

 他方、総会においても議案の標題を超える内容の情報提供はなされず、質疑応答においても「B社に変更することについてご判断ください」といった反応しかなかったとしたらどうでしょうか。

 この場合には、総組合員のうち、議場への参加者(実出席者)と議決権行使書・委任状による議決権行使者の割合によって、手続的瑕疵の影響度に関する判断が変化する可能性があり得ます。

 すなわち、例えば、議場への参加者がほとんどで、その圧倒的多数によって議案が承認された場合、客観的には説明不足であったとしても、組合員(総会)はその説明不足も踏まえてB社に変更することを承認したと言えますから、手続的瑕疵の影響は軽微と判断される可能性が高いと思われます。

 他方で、議場への参加者だけで見れば反対多数であったものの、委任状と議決権行使書面による賛成者を加えると辛うじて過半数であったような場合には、Ⓐ委任状と議決権行使書面による議決権行使者は、招集通知だけで承認をしたのだから、議場での説明不足を踏まえても同じく承認するだろうとも言えますし、Ⓑ委任状と議決権行使書面による議決権行使者は、議場で何らかの説明があるであろうことを踏まえて承認したもので、議場ですら説明のないことは想定していない、そうであれば反対していた可能性もある、とも言えます。

 そのため、非常に微妙なところがありますが、その前提たる手続的瑕疵自体の程度に立ち戻ると、このケースは飽くまで規約違反の手続的瑕疵であり、法令違反(区分所有法違反)ではありません。

 また、上記のとおり、区分所有法の定めからすれば、管理者(理事長)には当然に議案の提案権があると考えられますから、手続違反の程度としても軽微と考えられます。

 こういった事情からすると、仮に上記Ⓑのような可能性を踏まえたとしても、裁判所が法的安定性(事例で言えば管理会社Bの管理開始後の安定性)を害してまでもこの決議を無効とする判断をする可能性は低いと思われます。

結論

 以上のとおりですので、「理事会決議を経ていない議案についての総会決議は無効になるか」という点については、(実際には議案の内容やその他の手続違反の有無にも左右されますが)総会上程議案について理事会決議がないことだけをもって決議が無効とされる可能性は低いと考えます。

 実際には、理事会議事録で理事会決議を欠いている体裁になっているだけでなく、招集通知や総会での議事についてもよくよく検証すれば問題がある場合もありますから、総会の決議について疑問がある理事、組合員の皆様は、一度、マンション管理に精通した弁護士にご相談ください。

投稿者プロフィール

弁護士・マンション管理士 渡邊涼平
弁護士・マンション管理士 渡邊涼平
仙台弁護士会・宮城県マンション管理士会所属