マンションの理事会を招集できない!?標準管理規約に問題が…?
マンション管理組合・理事会の皆様、こんにちは。6月も下旬となり、定期総会も終わった、もうすぐ終わる、という管理組合も多いのではないでしょうか。
定期総会の一大イベント(?)と言えば、役員の選任ですよね。皆さんのマンションではどのようにして役員を選任していますでしょうか。完全立候補制、輪番制等考えられますが、この話題については別の機会に書きたいと思います。
標準管理規約における「理事長の選出」のための「理事会の招集」をどうやって行うか?
さて、多くの組合では、総会では役員(理事・監事)の選任のみを行い、理事長・副理事長・会計担当理事といった役職については、理事会の決議(互選)で決めるという内容の管理規約になっていると思います。
これは、国土交通省が作成している標準管理規約で、「理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する。」(35条2項)、「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する。」(35条3項)というモデルを作っており、これに準拠している管理組合が多いからです。
(役員)
標準管理規約(単棟型)(令和3年6月22日 国住マ第33号)
第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長○名
三 会計担当理事○名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。)○名
五 監事○名
2 理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する。
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する。
しかし、このモデル、よくよく考えると、大きな問題を抱えているのです(と私は考えるのですが、このような問題提起をされている方を見たことがありませんので、あまり気にされていないのだと思います。)。
というのも、理事長等は「理事会の決議によって」「選任」することになっているわけですから、まずは「理事会」を開催しなければなりません。
では、理事会はどうやって開催するか。これも標準管理規約を見てみますと、理事会の開催方法は次のとおりとなっています。
(招集)
標準管理規約(単棟型)(令和3年6月22日 国住マ第33号)
第52条 理事会は、理事長が招集する。
2 理事が○分の1以上の理事の同意を得て理事会の招集を請求した場合には、理事長は速やかに理事会を招集しなければならない。
3 前項の規定による請求があった日から○日以内に、その請求があった日から○日以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした理事は、理事会を招集することができる。
4 理事会の招集手続については、第43条(建替え決議又はマンション敷地売却決議を会議の目的とする場合の第1項及び第4項から第8項までを除く。)の規定を準用する。この場合において、同条中「組合員」とあるのは「理事及び監事」と、同条第9項中「理事会の承認」とあるのは「理事及び監事の全員の同意」と読み替えるものとする。ただし、理事会において別段の定めをすることができる。
そう、「理事会は、理事長が招集する」のです。理事長が招集しない場合も、一定数の理事の同意を得て理事長に対して理事会の招集を請求する必要があります。
しかし、定期総会の終了時点においては、標準管理規約35条2項に従った理事の選出をした場合、理事長は存在しません。招集する人も、理事が招集を請求する相手もいないのです。これでは理事会を開催できず、理事長を選任することができません。
この点については、「標準管理規約36条3項の役員の職務継続義務で対応できるのではないか」という意見も考えられます(管理業務主任者試験の令和元年問34の選択肢アもこの見解に立っているように読めます)。
(役員の任期)
標準管理規約(単棟型)(令和3年6月22日 国住マ第33号)
第36条 役員の任期は○年とする。ただし、再任を妨げない。
2 補欠の役員の任期は、前任者の残任期間とする。
3 任期の満了又は辞任によって退任する役員は、後任の役員が就任するまでの間引き続きその職務を行う。
4 役員が組合員でなくなった場合には、その役員はその地位を失う。
しかし、この職務継続義務の規定は、任期の満了後の職務継続に関しては、①標準管理規約上、役員の任期が「〇年」と年単位の定めになっており、前回定期総会から次回定期総会までに「〇年」を経過する可能性があるため、役員には「任期の満了」後の定期総会までの対応をしてもらう必要から置かれた規定と考えられること、②定期総会にて欠員なく新理事が全て選任された場合には「後任の役員が就任」したものと考えられることから、定期総会により新理事が全て選任された後も継続するとの考えは少し無理のある解釈のように思われます(そもそも、実際に定期総会後に旧理事長が新理事のための理事会を招集している事例はどれだけあるでしょうか?)。
会社法等における役員の権利義務継続規定との比較
似たような規定として、会社法における(代表)取締役の権利義務の継続がありますが、これは、任期満了又は辞任により役員がゼロになってしまった(または定款に定める数を満たさなくなってしまった)場合に、任期満了又は辞任により退任した(代表)取締役に権利義務の継続を認めるもので、役員が定款(マンションで言えば管理規約)に定める数を満たす場合には適用されません。
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第346条 役員…が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員…が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。(代表取締役に欠員を生じた場合の措置)
会社法
第351条 代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役…が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有する。
では、株式会社が株主総会で取締役を総入替えした場合、代表取締役がいない中でどうやって取締役会を開催するかというと、会社法はそこはちゃんとしており、「取締役会は、各取締役が招集する。」としているのです。そのため、代表取締役が選定されていなくとも、取締役会が招集できないということはありません。
(招集権者)
会社法
第366条 取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。
2 前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役…以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。
3 前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。
さらに、よりマンション管理組合に近い団体として、一般社団法人がありますが、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」といいます。)も、会社法と同様の定めが置かれており、「代表理事が欠けた場合又は定款で定めた代表理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表理事は、新たに選定された代表理事…が就任するまで、なお代表理事としての権利義務を有する。」(同法79条1項)、「理事会は、各理事が招集する。」(同法93条1項本文)としています。
すなわち、任期満了(又は辞任)により退任した役員について、その役員としての権利義務が継続するのは、原則として、極限られた(已むを得ず生じる)シチュエーションのみであって、毎年定期総会の度に生じるような事態ではないと考えるのが相当と考えます。
なお、管理組合法人についても、区分所有法は、会社法や一般法人法と同様に、「理事が欠けた場合又は規約で定めた理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した理事は、新たに選任された理事…が就任するまで、なおその職務を行う。」(同法49条7項)としています。
(理事)
建物の区分所有等に関する法律
第49条 管理組合法人には、理事を置かなければならない。
2 理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。
3 理事は、管理組合法人を代表する。
4 理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。
5 前項の規定は、規約若しくは集会の決議によつて、管理組合法人を代表すべき理事を定め、若しくは数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきことを定め、又は規約の定めに基づき理事の互選によつて管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。
6 理事の任期は、二年とする。ただし、規約で三年以内において別段の期間を定めたときは、その期間とする。
7 理事が欠けた場合又は規約で定めた理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した理事は、新たに選任された理事…が就任するまで、なおその職務を行う。
8 第二十五条の規定は、理事に準用する。
標準管理規約の改正経緯から考える
私がこのように考える根拠がもう一つあります。それは、標準管理規約の改正経緯です。
標準管理規約は、令和3年6月改正までにも何度も改正をされており、平成28年にも改正されているのですが、この平成28年改正前の標準管理規約36条3項は、次のとおりとなっていました。
第35条 管理組合に次の役員を置く。
標準管理規約(平成28年3月改正前のもの)
(略)
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。
そうなのです。標準管理規約では、平成28年改正前までは、理事長等の役職は「理事の互選により選任する」ことになっており、その文言上、理事会の決議(ひいては開催)は必要とされていなかったのです。
すなわち、理事長等の役職は「理事の互選により選任する」=定期総会により選任された新役員による投票等により役職選定ができるのですから、平成28年3月改正前までは役員の権利義務の継続条項を利用して(=前期理事長の招集権限を利用して)定期総会後の初回理事会を招集することは全く想定されていなかったと考えられます。
この「理事の互選により選任する」との文言が、平成28年3月改正で「理事のうちから、理事会で選任する。」と改正されたのですが、他方で、標準管理規約52条1項の「理事会は、理事長が招集する。」との定めは修正されなかったのです。
役職の選定を「理事の互選」で行えるのであれば、理事会の招集権者たる理事長がいなくとも(理事会を開催せずとも)理事長その他の役職の選定ができたため、標準管理規約52条1項は「理事会は、理事長が招集する。」のままでよかったのですが、役職の選定を「理事会で」行うとする改正をしたにもかかわらず、理事会の招集権者を理事長のみとしたままにしてしまったために、標準管理規約内に歪みが生じてしまったものと考えられます。
このように、標準管理規約の改正経緯からしても、標準管理規約は、その36条3項を利用して前期理事長に当期の理事会の招集をさせることを想定していないと考えられるのです。
標準管理規約のままで対応する方法は?
ここまで述べてきたとおり、私としては、標準管理規約のままでは、通常総会(定時総会)後に「理事会は、理事長が招集する」ことはできないと考えます。
それでは、標準管理規約のままでは新理事会を開催することは不可能なのでしょうか。そんなことはありません。
上記で比較対象として挙げた会社法では、取締役会の招集手続として、「取締役会は、取締役…の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。」としています(会社法368条2項)。
(招集手続)
会社法
第368条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間…前までに、各取締役…に対してその通知を発しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役…の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。
また、一般法人法も、同様に理事会の招集手続として「理事会は、理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。」としています(一般法人法94条2項)。
さらに、区分所有法も、集会(総会)に関する規定ですが、「集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。」と定めています(区分所有法36条)。
このように、組織に関する会議は、その構成員全員の同意がある場合には、招集手続を経ることなく開催することができ、この理は、管理組合の理事会にも当てはまります。
そのため、標準管理規約の文言をそのまま用いるとしても、例えば、定期総会で理事に選任された組合員が全員その場にいて、そのまま定期総会後に新理事全員が集まる場合には、理事長がいなくとも理事会を開催することが可能です。
また、定期総会に新理事全員が出席していなくとも、新理事全員が特定の日に理事会を開催することに同意すれば、その日に理事会を開催することができます。
おそらくは、多くの管理組合(理事会)では、事実上(無意識的に)、このような手段で初回理事会を開催して理事長等の選出を行っているのではないでしょうか。
管理規約を改正するならば?
もっとも、今後、必ずしも新理事全員の同意が取れるとも限りません。輪番制を採用している場合、全く連絡が取れない理事が出てくることも十分に予想されます。
そうなると、上記の全員同意による理事会の開催は不可能となり、理事長等の選出ができない状況が生じかねません。
そのため、根本的には、規約を標準管理規約からアップデートする必要があると考えます。アップデートの内容としては、
①理事会の招集方法について例外を設けるパターン(理事長等の選出を理事会決議で行うことを維持する)
②理事会の招集方法は理事長によるままにして、理事長等の選出方法を理事会決議以外の方法とするパターン
のいずれかになります。
そして、そのアップデート内容は、各管理組合・理事会のこれまでの理事長等の選出方法の実情に合わせることもある程度可能と考えます。
例えば、②のパターンの一つとしては、理事による投票で最多得票をしたものを理事長、第二得票者を副理事長、第三得票者を会計担当理事とする、というような定め方が考えられます。
また、各役職に立候補した理事を各役職に選定する、ただし、一の役職に複数の理事が立候補をした場合には投票をする、立候補者がいない場合には理事が相互に投票する、という定め方もあり得ます。
このような場合には、具体的な投票方法については細則に定める、とすることも考えられますし、いっそ規約改正をするのであれば、規約の中に投票方法を盛り込むということも考えられます。これは、後々の投票方法に関する手続の改正を容易にしたいかによって変わってきます(細則であれば総会出席組合員及び議決権の過半数賛成で改正できますが、規約だと全組合員及び議決権の4分の3以上の賛成がないと改正できません。)。
なお、平成28年3月改正前の標準管理規約のような「互選」という用語を使用するのは止めた方がよいと考えます。というのも、この「互選」という用語については、法令上の明確な定義がないため、「なにをしたら『互選』に該当するのか」が曖昧になってしまうためです。
そのため、少なくとも、立候補、投票、推薦といった、用語の定義が明確なものを使用して改正を検討したほうがよいと考えます。
管理規約の改正についてお気軽にご相談ください
このように、法的に意味のある(かつ有効な)形での規約改正は、法的知識がないとなかなか難しい面があります(国交省が作る標準管理規約ですらこのような状態なのですから…)。
そのため、管理規約について改正を検討される際には、是非、マンション管理に精通した弁護士にご相談ください。
投稿者プロフィール
- 仙台弁護士会・宮城県マンション管理士会所属
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