修繕積立金が長期修繕計画に見合っていない――そう分かってから実際に額を変えるまでには、決議とその前の値上げの機運の醸成という2つの段階があります。ここでは、どの決議が必要で、何を用意すれば話が進むのかを整理します。

1.まず確認する3つのこと

 値上げの議論に入る前に、次の3点を計算、確認してください。この3つを説明できないと、総会で確実になされるであろう、「なぜ今値上げが必要なのか」との問いに答えられません。

  1. 現在の積立総額と、共有持分に応じた各戸の負担額
  2. 長期修繕計画 いつ作成・改定したものか。何年分を見込んでいるか。現在の積立て状況でどこまで賄える見込みか(作成・改定時から修繕費用の値上がりはないか)。
  3. 現状の積立方式 均等積立方式か、段階増額積立方式か

 均等積立方式とは、長期修繕計画の期間中の積立金の額が均等となるように設定する方式をいいます。段階増額積立方式とは、当初の積立額を抑え、段階的に増額する方式をいいます(マンション標準管理規約コメント第64条関係⑧)。

 段階増額積立方式の場合、当初から増額が予定されているように見えます。しかし、当初から値上げが予定されており、予定どおりの値上げをする実際の値上げの際には総会決議が必要になりますし、予定どおりの増額では修繕を賄えないのであれば、予定から外れた金額への値上げが必要になります。

2.必要な決議は「普通決議」です

 修繕積立金の額の変更は、総会の普通決議で行えます。管理規約に修繕積立金の金額表が添付されていても、原則として管理規約の改正には該当せず、4分の3の特別決議は必要ありません。

 標準管理規約は、「管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法」を総会の議決事項として挙げており(48条六号)、この決議は「出席組合員の議決権の過半数で決する」とされています(47条2項)。

 ただし、総会の成立には定足数があります。令和7年の標準管理規約改正により、総会は「議決権総数の過半数を有する組合員が出席しなければならない」とされました(47条1項)。改正前は「半数以上」でしたので、規約が古いままの管理組合は、この点の確認は必要です。

例外:規約に金額が書かれている場合

 管理規約の本文に修繕積立金の金額そのものが書き込まれている場合は、金額の変更は規約の変更と考えざるを得ません。この場合は4分の3の特別決議が必要です。

 お手元の規約で、金額がどこに定められているか、管理費等の改正についてどのような定めが置かれているかをご確認ください。ここを取り違えると、決議のやり直しになるかもしれません。

3.負担割合は、使用頻度では変えられません

 管理費等の額は、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するのが原則です(標準管理規約25条2項)。

 標準管理規約のコメント25条関係①では、「管理費等の負担割合を定めるに当たっては、使用頻度等は勘案しない」と明記されています。「エレベーターを使わない1階だから安くしてほしい」といった主張が総会で出ることがありますが、標準管理規約の考え方はこのとおりであり、原則として考慮されません。

 議決権について一戸一議決権や価値割合を採用している場合であっても、管理費等の負担額については共用部分の共有持分に応じて算出することが考えられるとされています(同コメント25条関係③)。

4.合意形成をどう進めるか

 普通決議とはいえ、値上げは反対の出やすい議案です。標準管理規約のコメントは、合意形成に有効な進め方として次のようなやり方を挙げています(48条関係)。

  • 毎年の総会で、長期修繕計画上の積立予定額と現時点における積立額の差を明示した資料を提示する
  • 長期修繕計画を総会資料に添付する
  • 段階増額積立方式を採用している場合は、今後の変更予定時期及び変更予定額を説明する

 要は、値上げの議案を上程した総会で初めて値上げの話をすることは避けるべきだということです。毎年の総会で差額を示し続けていれば、改定の議案は「予定されていたこと」として受け止められやすくなりますし、積立金額が修繕費用に足りていないことが分かっていれば、値上げも已む無しという意識になります。

 逆に、何年も触れずにきて突然2倍の議案を出せば、金額の当否以前に「なぜ今まで黙っていたのか」という話になります。これは説明の順序の問題であり、後から取り返すのが難しい部分です。

 一度値上げに失敗してしまうと、翌年すぐに値上げ議案が可決される可能性は低いと考えられます。そのため、総会議案書を配布する前に、値上げの機運を醸成しておくことが重要になるのです。

5.長期修繕計画の見直しとセットで考える

 修繕積立金の額は、長期修繕計画から逆算して決まります。長期修繕計画が古いままでは、積み立てるべき金額の根拠を示すことができません。

 長期修繕計画の作成又は変更も、総会の議決事項です(標準管理規約48条五号)。計画の改定と積立金の改定を同じ総会に諮るのが説明としても手続としても簡便ではありますが、大規模修繕の時期がまだ先であり、積立期間に余裕があるのであれば、長期修繕計画の改定をし、「現在の積立金では大規模修繕の費用を賄えない」ことを組合員にイメージ付けてから、翌年に修繕積立金の値上げ議案を上程するということも考えられます。

6.よくあるつまずき

① 決議事項の書き方が曖昧

 「修繕積立金を値上げする」とだけ書いた議案では、可決後に金額の争いが残ります。改定後の月額、適用開始月、対象となる住戸の区分を、議案書に明記する必要があります。

② 総会の定足数を満たしていない

 前記のとおり、令和7年改正で定足数が「議決権総数の過半数」になりました。委任状と議決権行使書を含めて出席として算入できるか条文構造となっているかを、予めお手元の規約でご確認ください。

③ 値上げ後の滞納を想定していない

 額が上がれば、支払えない世帯が出てくることもあります。改定と同時に、滞納が生じた場合の手順を理事会と管理会社で確認しておくことをお勧めします。

よくあるご質問

修繕積立金の値上げに、規約の改正は必要ですか。

 原則として必要ありません。総会の普通決議で行えます(標準管理規約48条六号、47条2項)。ただし、規約の本文に金額が書き込まれている場合は規約の変更にあたり、4分の3の特別決議が必要です。

1階の住戸から「エレベーターを使わないので安くしてほしい」と言われました。

 標準管理規約は、管理費等の額を共用部分の共有持分に応じて算出するものとし(25条2項)、同コメントは負担割合を定めるにあたって使用頻度等は勘案しないとしています(25条関係①)。

一時金を徴収することはできますか。

 修繕時に既存の修繕積立金では費用が不足する場合などに、一時金の徴収がされることがあります。区分所有法19条に「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任」ずると定められていること、及び、標準管理規約61条2項にも「管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。」との定めが置かれているように、共用部分等の管理に要する費用が不足する場合に一時金を徴収することは管理組合に認められた権利であり、その支払いは区分所有者(組合員)の義務です。

値上げの議案が否決されたらどうなりますか。

 従前の修繕積立金を継続して徴収し、場合によってはそのまま大規模修繕に臨まなければならないこともあるでしょう。

 その場合には、①上記のように組合員から一時金を徴収したり、②住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資を利用することを検討することになりますが、一時金は高額になりますから、その満額の徴収は修繕積立金の値上げよりもハードルが高いと予想されます。

段階増額積立方式から均等積立方式に変えられますか。

 変更可能ですし、現在の積立方式が段階増額積立方式なのであれば、均等積立方式に変更すべきです。段階増額積立方式の場合、何度も修繕積立金の値上げ議案を通さなければならなくなりますし、仮に大規模修繕までには積み立てられる計画となっていたとしても、途中で災害等が生じた場合に修繕をするためのバッファ(余裕)がない計画になってしまっている可能性があります。

 段階増額積立方式でも、均等積立方式でも、最終的に積み立てるべき金額はほとんど同じになる(個々の区分所有者が支払うべき総額もほとんど同じになる)はずですから、区分所有者に不利益はありません。「積立金額が低いうちに転売を試みたい区分所有者」にとっては持ち出しが増えることにはなりますが、修繕積立金が健全に積み立てられているマンションこそ高い価値を有するはずですから、均等積立方式への変更は、転売を検討している方にとってもマンションを高く売ることができる条件が整うチャンスと考えていただきたいと思います。

ご相談ください

 修繕積立金の改定は、金額の計算はもとより、決議の設計と説明の順序でつまずくことが多い場面です。長期修繕計画にもとづく改定案の組み立て、議案書の文言、総会の運営について、弁護士・マンション管理士としてご相談をお受けします。

本記事は、建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)について令和7年法律第47号による改正後(令和8年4月1日施行)の条文、及びマンション標準管理規約(単棟型)並びに同コメント(令和7年10月17日改正)にもとづいています。管理規約の定めはマンションごとに異なりますので、実際の判断はお手元の規約をご確認ください。