マンションを管理していくためには、沢山の法的な知識が必要となります。

 特に以下に挙げる項目の知識は、理事会役員になる方以外の一般の組合員の方にも是非とも知っておいていただきたい知識です。

 これらの知識を持っていないと、自身が所有し、管理するマンションが、どのような根拠で管理されており、問題が生じた場合にはどのようにして対応することができるのか、分からないまま生活することになってしまいます。

 難しい単語も出てきますが、できるだけ分かりやすく説明していますので、是非ご覧ください。

管理組合とは?

 マンションのように、1つの建物に複数の部屋が独立して存在し、各部屋を個別に所有権の対象とすることができる建物の管理方法の原則については、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます。)に定めがおかれています。

 区分所有法3条は、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成」すると定めており、この条文により、マンションの区分所有者(各部屋の所有者)は、区分所有者となるのと同時に当然に「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体」の一員となります。

 これが一般に「管理組合」と呼ばれる団体です(その構成員(区分所有者)を一般に「組合員」と呼びます。)。

 なお、区分所有法の中には「管理組合法人」という単語は出てくるのですが、「管理組合」という単語は出てきません。

 区分所有法3条の定めのとおり、管理組合は、「建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体」です。そのため、マンションの専有部分(個々の区分所有の対象となる部屋の中(一部例外あり))以外=共用部分や敷地の管理は、組合員個人ではなく管理組合が行うことになります。

管理規約とは?

 マンションの管理方法の原則については、区分所有法に定めがおかれていますが、区分所有法だけでは多様な規模、構造、設備、棟数のマンション全てに対応する定めを網羅することはできません。

 そのため、区分所有法は、個々のマンションの実情に応じた管理ができるよう、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」等として、「規約」によってマンションの管理や使用に関するルールを定められるようにしています(区分所有法30条等)。

 これが、一般的に「管理規約」と呼ばれるものです。

 この「規約」は、「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によって」設定、変更、廃止ができるようになっています(区分所有法31条1項。いわゆる「特別決議」。)。

 もっとも、集会(=管理組合総会)をやるまで管理規約が存在しないのでは、分譲直後のマンションには区分所有法以外のルールが存在しないことになってしまいます。

 そのため、一般的には、マンションの分譲主が管理規約案を作っておき、分譲にあたって全ての購入者からその管理規約案への同意をもらうことで、分譲(引渡し)時点から管理規約が存在する状態を作っています。

使用細則とは?

 「管理規約とは?」で記載したように、管理規約の設定、変更、廃止には区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(=管理組合総会での特別決議)が必要となっており、この制限は管理規約でも変更できないことになっています。

 そのため、マンション管理のために必要な事項を全て管理規約に盛り込んでしまうと、その変更のためには管理組合総会で毎回区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成を貰わなければならなくなり、非常に大変です。

 そこで、区分所有法によって管理規約という形で定めなければならない事項とされている事項以外の、共用部分・施設の使用方法、駐車場の使用料や優先順位、ゴミの出し方、ペットの飼育方法といった細かい生活上のルールについては、規約とは別に「使用細則」という形で定めることが一般的に行われています(使用細則を定めることができる旨を管理規約内に定めます。)。

 使用細則は、管理規約によって定めることが認められた「管理規約外」のルールであるため、その設定、変更、廃止には、管理組合総会で過半数の賛成が得られればよい、ということになります(いわゆる「普通決議」)。

 そのため、「使用細則」は、マンション内の生活上のルールを設けやすい、ルールが実情に合わなくなったら変更しやすい、といったメリットがあります。

総会とは?

 「管理組合とは?」で述べたように、マンションの専有部分以外の管理を行うのは管理組合です。

 しかし、管理組合は多数の組合員(区分所有者)で構成しますから、管理組合としてどのようにマンションを管理していくかについてのルール(管理規約や使用細則)を作ったり、その他重要な意思決定をしたりする機関が必要になります。

 この管理組合の意思決定をする機関が「総会」です(区分所有法では「集会」となっています(法34条1項))。総会(集会)は、国の機関でいえば国会のようなものです。

 区分所有法では、「集会」の議事は、組合員全員を基準に「区分所有者及び議決権の各過半数で決する」ことになっています(法39条1項)。しかし、大規模なマンションでは、毎回「集会」で組合員全員の過半数の同意がないといけないとなると、機動的に意思決定をすることが困難になってしまいます。

 そのため、区分所有法は、「集会」の議決方法について「この法律又は規約に別段の定めがない限り」との例外規定を置いており、これを受けて、通常は管理規約で、①総会は議決権総数の半数以上で開催でき、②普通決議については出席組合員の議決権の過半数で決することができるようにしています(特別決議は、区分所有法によって「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議」等が必要とされているため、一部を除き規約で別段の定めをしても無効です。)。

 管理組合総会(特に毎年必ず1回開催する通常総会)では、一般的に、①役員の選任及び解任、②収支決算及び事業報告、③収支予算及び事業計画について決議し、このほか、必要に応じて、④規約の制定・変更(特別決議事項)、⑤使用細則の制定・変更、⑥長期修繕計画の作成・変更、⑦管理費・修繕積立金や使用料の設定・変更、⑧修繕積立金の保管や運用方法、⑨震災時等における修繕積立金の取崩し、⑩マンション管理計画の認定の申請、⑪管理会社に対する管理委託契約の締結、⑫共同利益背反行為者に対する訴訟提起、⑬マンションの建替えや除却に関する事項、⑭その他管理組合の業務に関する重要事項について決議をすることになります。

 なお、このうち、区分所有法によって必ず総会の決議で決めなければならないとされているのは、以下の表のとおりです(「法」は「区分所有法」を、「標」は「標準管理規約(単棟型)」を指します。)。

必要な定数決議事項根拠条文標準管理規約の場合
【普通決議】
原則:区分所有者の過半数かつ議決権の過半数
例外:規約に定足数の定めを置くことで、出席組合員の議決権の過半数
共用部分の管理、軽微変更に関する事項(保存行為は含まれない。)法18条1項本文
区分所有者の共有に属する敷地または附属施設の管理、軽微変更に関する事項(保存行為は含まれない。)法18条1項本文、法21条
管理者の選任・解任法25条1項理事長が管理者(標38条2項)、理事長は理事会決議で選任・解任(標35条2項)
管理者に対する訴訟追行権の授権法26条4項理事会決議により理事長が可能(未納管理費等請求について標60条4項、共用部分等に関する損害賠償請求について標67条3項2号)
管理者がいない場合の規約、議事録、書面・電磁的方法による決議に係る書面・電磁的記録の保管者の選任法33条1項ただし書、法42条5項、法45条4項
総会の議長の選任法41条理事長が総会の議長(標42条5項)
管理組合法人の理事及び監事の選任・解任並びに任期法49条5項から8項、法50条4項、法25条1項
管理組合法人の理事が数人ある場合の代表理事の選任又は共同代表の定め法49条5項
管理組合法人の事務法52条1項本文
建物の価格の2分の1以下の小規模一部滅失の場合の復旧法61条3項標48条12号
共用部分の重大変更(建築物の耐震改修の促進に関する法律第25条第2項に基づく認定を受けた建物の耐震改修)※建築物の耐震改修の促進に関する法律25条3項
共同利益背反行為の停止等を求める訴訟の提起法57条2項、4項具体的な規約違反、使用細則違反、不法行為については、理事会決議により理事長が差止請求訴訟可能(標67条3項1号)
共同利益背反行為者に対する訴訟に関する管理者等に対する訴訟追行権の授権法57条3項・4項、法58条4項、法59条2項、法60条2項
区分所有者の3/4以上かつ議決権総数の3/4以上
(一部を除き規約での変更不可)
共同利益背反行為者に対する専有部分の使用禁止の請求法58条1項・2項標47条1項3号
共同利益背反行為者に対する区分所有権の競売請求法59条1項・2項
共同利益背反行為占有者に対する引渡請求法60条1項・2項
共用部分の重大変更(上記※を除く。)法17条1項規約により、区分所有者の定数は過半まで減ずることが可能。もっとも、標47条3項2号は定数変更していない。
区分所有者の共有に属する敷地又は附属施設の重大変更法21条、17条1項
規約の設定・変更・廃止法31条1項標47条3項1号
管理組合法人の成立法47条1項
管理組合法人の解散法55条1項3号、2項
建物の価格の2分の1超の大規模一部滅失の場合の復旧法第61条5項標47条3項4号
区分所有者の4/5以上かつ議決権総数の4/5以上
(規約での変更不可)
建替え決議法第62条1項標47条4項
マンション敷地売却決議マンション建替法108条標47条5項
理事会とは?

 「管理組合とは?」で述べたように、マンションの専有部分以外の管理を行うのは管理組合です。そして、管理組合の方針は、「管理組合総会とは?」で述べたように、(管理組合)総会で決定されることになります。

 しかし、総会は、通常少なくとも議決権総数の半数以上の参加が必要であり、マンションの規模によっては毎回広い会場を確保しなければならず、頻繁に開催するのは容易ではありません。

 そこで、区分所有法は、「共用部分の管理に関する事項」ついて、原則は「集会の決議で決する」としつつ(法18条1項)、「前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない」(法18条2項)として、管理規約によって集会の決議以外の方法で共用部分の管理について決することができるよう定めることができるとしました。

 これを受けて、通常、管理規約によって、管理組合の役員(理事・監事)を置き、この役員で構成される「理事会」を設置し、日常的な「共用部分の管理に関する事項」は理事会で検討して対応していけるようにしています。国の機関でいえば、総会(集会)が国会であれば、理事会は内閣に相当します。

 理事会は、日常の共用部分の管理に関す事項について検討・実行したり、敷地内での事故に対応したり、防災に関する事項を検討・実行したり、総会で決議しなければならない事項の議案を検討して作ったりしながら、管理会社と連携してマンションの組合員・住人のために日々尽力しています。

管理費とは?

⑴ 管理費とは?

 管理費は、マンション共用部分の「通常の管理に要する経費」に充てられる費用です。

 「通常の管理に要する経費」とは、文字どおり、マンションを管理する上で日常的に当たり前のようにかかる費用を指しますので、地震や火災といった災害に伴う損害を受けた部分を修繕する際には、管理費を用いることはできず、修繕積立金を取り崩す必要があります。

⑵ 「通常の管理に要する経費」とは?

 標準管理規約第27条では、「通常の管理に要する経費」は次のとおりとされています。

① 管理員人件費
② 公租公課
③ 共用設備の保守維持費及び運転費
④ 備品費、通信費その他の事務費
⑤ 共用部分等に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料
⑥ 経常的な補修費
⑦ 清掃費、消毒費及びごみ処理費
⑧ 委託業務費
⑨ 専門的知識を有する者の活用に要する費用
⑩ 管理組合の運営に要する費用
⑪ その他第32条に定める業務に要する費用=
 一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理
 二 組合管理部分の修繕
 三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
 四 建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
 五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
 六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
 七 共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務
 八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
 九 敷地及び共用部分等の変更及び運営
 十 修繕積立金の運用

⑶ 管理費が何に使われるかはどうやったら分かる?

 管理費がどのようなものに使われたのか、使われる予定なのか、管理費に余裕があるのか(不測の支出に耐えられるのか)は、皆さんのマンション管理組合の総会議案書の収支決算報告と収支決算予算を見ると概ね分かるようになっています。

⑷ 管理費がしっかり集められているかはどうやったら分かる?

 また、管理費がちゃんと集められているか(支払っていない組合員がいないかどうか)、滞納されている合計額はいくらなのかは、収支決算報告内の管理費会計の貸借対照表の「未収金」欄を見ると分かるようになっています(ただし、新築分譲中の場合には未分譲の区画分が「未収金」に計上されている場合があります。)。

修繕積立金とは?

⑴ 修繕積立金とは?

 修繕積立金は、マンション共用部分の「特別の管理に要する経費」に充てられる費用です。

 「特別の管理に要する経費」とは、マンションを管理する上で通常はかからないものの、地震や火災と言った災害に伴う損害の復旧や、長期修繕計画に基づく修繕や、その他の共用部分の変更等の、予め資金を準備しておく必要のある大きな費用を指します。

⑵ 「特別の管理に要する費用」とは?

 標準管理規約第28条では、「特別の管理に要する経費」は次のとおりとされています。

① 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
② 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
③ 敷地及び共用部分等の変更
④ 建物の建替え及びマンション敷地売却に係る合意形成に必要となる事項の調査
⑤ その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
⑥ マンション建替組合の設立の認可又はマンション建替事業の認可までの間において、建物の建替えに係る計画又は設計等に必要がある場合
⑦ マンション敷地売却組合の設立の認可までの間において、マンション敷地売却に係る計画等に必要がある場合

⑶ 修繕積立金が何に使われるかはどうやったら分かる?

 修繕積立金がどのようなものに使われたのか、使われる予定なのかは、皆さんのマンション管理組合の長期修繕計画書を見ると概ね分かるようになっています。

⑷ 修繕積立金がしっかり集められているかはどうやったら分かる?

 また、修繕積立金がちゃんと集められているか(支払っていない組合員がいないかどうか)、滞納されている合計額はいくらなのかは、収支決算報告内の修繕積立金会計の貸借対照表の「未収金」欄を見ると分かるようになっています(ただし、新築分譲中の場合には未分譲の区画分が「未収金」に計上されている場合があります。)。

⑸ 「段階積立方式」と「均等積立方式」

 なお、修繕積立金については、多くのマンションで分譲当初(管理組合結成当時)は「段階積立方式」(修繕積立金が5年程度毎に段々と増額される方式)が採用されています。分譲会社は、このように設定することで、分譲当初のランニングコストを低く見せて分譲しやすくしているのです。

 しかし、「段階積立方式」では地震等による不測の修繕に対応できない危険がありますし、予め増額が予定されているとはいっても、実際に修繕積立金を増額するためには、その都度、少なくとも総会で過半数の賛成を得なければなりません。もし、万が一修繕積立金の増額議案が否決されてしまうと、大規模修繕に要する費用に全く足りない金額しか積み立てられないおそれもあります。

 そのため、国土交通省が作成する「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和3年9月改訂)では、修繕積立金は「均等積立方式」(増額を予定するのではなく、必要と見込まれる費用を均等に分割して積み立てる方式)の採用を推奨し、また、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和5年4月追補版)では、長期修繕計画の計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安を提示し、その平均前後の金額を積み立てることを推奨しています。

⑹ 修繕積立金ガイドラインの推奨額 

 国土交通省が推奨する修繕積立金の金額は、次のとおりです。

地上階数/建築延べ床面積月額の専有面積当たりの修繕積立金額
事例の3分の2が包含される幅平均値
20階未満5,000㎡未満235 円~430 円/㎡・月335 円/㎡・月
5,000㎡以上
10,000㎡未満
170 円~320 円/㎡・月252 円/㎡・月
10,000㎡以上
20,000㎡未満
200 円~330 円/㎡・月 271 円/㎡・月
20,000㎡以上190 円~325 円/㎡・月255 円/㎡・月
20階以上240 円~410 円/㎡・月 338 円/㎡・月

 なお、マンション内に機械式駐車場(タワー型を含む)がある場合には、その修繕には大きな費用がかかるため、上記の表の金額に、機械式駐車場の種類によって以下の金額に駐車台数をかけてマンションの総専有床面積で割った金額を加えることが推奨されています。

機械式駐車場の機種機械式駐車場の修繕工事費
(1台当たり月額)
2段(ピット1段)昇降式6,450 円/台・月
3段(ピット2段)昇降式5,840 円/台・月
3段(ピット1段)昇降横行式7,210 円/台・月
4段(ピット2段)昇降横行式6,235 円/台・月
エレベーター方式(垂直循環方式)4,645 円/台・月
その他5,235 円/台・月

 皆さんのマンションの修繕積立金は、国土交通省の推奨する金額を満たしていますか?一度、分譲時に配布されているはずの長期修繕計画書を確認してみてくださいね。

長期修繕計画とは?

⑴ ”2つの老い”

 マンションは年々劣化していくため、定期的にメンテナンス(修繕)を行う必要があります。この修繕については、マンション共用部分に使われている材料や場所(屋内か屋外か等)等によって、概ねどの程度の年月が経ったら何を修繕すべきかが分かっています。このような想定される修繕を長期的に時系列にまとめたものが「長期修繕計画」です。そして、長期修繕計画に従った修繕を「計画修繕」と言います。

 この計画修繕には多額の費用がかかりますから、修繕を行う際に一気に組合員(区分所有者)から集めようとしてもなかなか難しいでしょう。そのため、長期修繕計画には、修繕の計画とともに、修繕に要する費用の計画も組み込むことになっており、それに従って積み立てていく必要があります。

⑵ 長期修繕計画ガイドライン

 長期修繕計画については、国土交通省が「長期修繕計画標準様式」と「長期修繕計画作成ガイドライン」を定め、この基準を満たすよう長期修繕計画を作成するよう推奨しています。

 「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和3年9月改訂)では、長期修繕計画の期間は、30年以上で、かつ、大規模修繕工事(外壁の塗装や屋上防水などを行う修繕工事)が2回含まれる期間以上とすることが推奨されています。

 特に、修繕積立金については、積立方式は「均等積立方式」を推奨しており、さらに、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に定める修繕積立金の基準を満たすように計画することを推奨しています。

⑶ 長期修繕計画に基づき行う工事の内容 

 長期修繕計画で計画する工事は、原則として、マンションとその設備の性能・機能を新築時と同等水準まで維持、回復させる修繕工事を基本とします。

 もっとも、竣工から10年、15年も経つと、よりよい材料や設備が存在していることもありますから、区分所有者(組合員)の要望やその時々の設備の部品保有期間の残期間等に応じて、性能を向上させる工事をすることも検討する必要があります。

 また、計画した工事を必ず実施しなければならないわけではなく、計画上は工事を実施すべき時期が到来する前に、建物等の調査・診断を行い、その結果に基づいて必要な工事を実施することになります。

⑷ 長期修繕計画の見直し 

 上記のとおり、長期修繕計画は30年以上で、かつ、大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とすることが推奨されています。

 しかし、これは、1度「30年以上の計画」を作成すればよい、ということではありません。①建物及び設備の劣化状況、②社会環境や生活様式の変化、③新たな材料・工法等の開発とそれに伴う修繕周期、単価等の変動、④修繕積立金の運用益、借入金の金利、物価、工事費価格、消費税率等の変動を踏まえて、概ね5年ごとに見直すことが求められます

 長期修繕計画を見直す際には、修繕積立金の見直しも検討します(均等積立方式を採用していたとしても、その後も同じ金額での均等積立で足りるかについて検討し、足りないと見込まれる場合には増額をする必要があります。)。

マンション管理計画認定制度とは?

⑴ マンション管理適正化指針

 マンションに限らず、建物というものは、①建物自体の老い(老朽化)と②居住者の老いにさらされます。もっとも、人間が老いることは避けられませんが、建物は、適切なメンテナンスを行うことで長期間快適な居住空間を維持することが可能です。

 この点、戸建て建物であれば、現に住んでいる方が問題を感じないのであれば建物の老朽化も受け入れるということもあるでしょうし、仮に建物の老朽化が進み続けてしまい住むのに適さなくなったとしても、その取壊しのコストは巨大ではありませんし、更地として売却することも容易です。

 しかし、マンションの場合は、多数の方が住んでおり、居住者によって老朽化に対する認識も異なりますし、老朽化が進んで住むのに適さなくなってしまうと、区分住戸を売却するのは困難になりますし、取り壊そうにもその取壊しコストは巨大で、更地として売却するのも容易ではありません。

 そのため、マンションについては、国が「マンションの管理の適正化に関する指針」を定め、「マンションを社会的資産として、この資産価値をできる限り保全し、かつ、快適な居住環境が確保できるよう」に基本的方向性を提示しました。

⑵ 管理計画認定制度

 上記の国の指針とマンション管理適正化法に基づき、各自治体は、その自治体の実情に応じたマンション管理の適正化の推進に関する計画(マンション管理適正化推進計画)を策定できるようになりました。

 そして、このマンション管理適正化推進計画が策定された自治体においては、当該自治体内のマンションについて、マンション管理適正化推進計画に適合する管理が行われている旨の認定(管理計画認定制度)を運用することができるようになりました。

 管理計画認定制度では、国が定めた次の各基準に該当するかに加え、自治体の実情に応じた基準を設けることができるようになっています。

管理規約①管理規約が作成されていること
②災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部の立ち入り、修繕等の履歴情報の管理等について、定められていること
③管理組合の財務・管理に関する情報の書面の交付又は電磁的方法による提供について、定められていること
管理組合の運営①管理者等が定められていること
②監事が選任されていること
③総会が年1回以上開催されていること
管理組合の経理①管理費及び修繕積立金等について、明確に区分して経理が行われていること
②修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと
③直前の事業年度の終了の日時点における修繕積立金の3ヶ月以上の滞納額が全体の1割以内であること
長期修繕計画の作成及び見直し等①長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠し作成され、長期修繕計画の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金額について総会にて決議されていること
②長期修繕計画の作成又は見直しが7年以内に行われていること
③計画期間が30年以上で、かつ、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
④長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
⑤長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
⑥長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残高のない長期修繕計画となっていること
その他組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること

⑶ 認定を受けるメリット

 まず、管理計画の認定を受けると、その旨が自治体のウェブサイトとマンション管理センターの専用ページにて公開されます。これにより、マンションの購入を検討している方が各マンションを比較検討する際に、適切に管理されているマンションであることを認識することができるため、購入の動機となり得、その結果として、不動産取引市場においてよい評価を得ることができると見込まれます。

 また、管理計画の認定を受けているマンションについては、現に、適切な管理がなされていることによる快適な居住環境と資産価値の長期的な維持・改善が見込めます。

 さらに、より具体的な経済的メリットとして、①マンションの修繕積立金の運用方法である「マンションすまい・る債」や、大規模修繕の際に借入れを行う必要がある場合に利用できる「マンション共用部分リフォーム融資」にて金利優遇を受けることができたり、②専有部分を売却する際に、購入者がフラット35を利用する場合に金利優遇を受けることができるようになります

 また、(2023年4月末日現在、2023年4月1日から2025年3月31日までの時限的な施策ですが、)管理計画の認定を受けた築20年以上が経過している一定のマンションについては、長寿命化工事が実施された場合に、その翌年度に課される建物部分の固定資産税額が減額される「マンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)」を受けることができる場合があります。

⑷ 管理計画の認定を受けるための手順

 管理計画の認定を受けるための手順として、まず、必ず管理組合の総会で認定申請をする件について決議(出席組合員の議決権の過半数の普通決議)を経る必要があります。その上で、次の5パターンの申請方法があります。

① 管理組合が、直接マンション管理士に事前確認を依頼し、事前確認の後、管理組合自身でマンション管理センターが運営する「管理計画認定手続支援システム」を利用し、インターネットによる申請手続きを行う。
② 管理を委託している管理会社(その内部のマンション管理士)にマンション管理適正評価制度の利用と管理計画認定の事前確認を一緒に依頼して申請する。
③ 日本マンション管理士会連合会が行っている「マンション管理適正化診断サービス」と管理計画認定の事前確認を一緒に依頼して申請する。
④ マンション管理センターに事前確認を依頼して申請する。
⑤ 事前確認を経ずに、自治体の窓口に直接申請する。

 大手の管理会社に管理を委託している場合は、②を利用するケースが多いと思われます。他方、マンション管理士を抱えていない小規模な管理会社に管理を委託している場合には、①自らマンション管理士を探すか、③マンション管理士会のマンション管理適正化診断サービスとともに依頼するか、④マンション管理センターに依頼するかのいずれかになると思われます(自治体によっては⑤事前確認を経ない直接申請を受け付けないところもあるようです。)。