マンションの管理に必要不可欠な管理費・修繕積立金の滞納は、管理組合にとって基本的かつ重要な問題です。

管理費・修繕積立金の滞納が判明した場合には、以下のような手順で早急に対応しましょう。

1.管理会社との連携

 多くの場合、組合員による管理費の滞納をいち早く知るのは管理会社です。そして、多くの場合、管理委託契約により管理会社が受託する「基幹事務」のうち、出納業務の一部として「管理費等滞納者に対する督促」が含まれています。管理会社がこの督促を何か月間行ってくれるかは管理委託契約の内容によりますが、多くは3か月から6か月程度となっています。

 そのため、まずは、①管理会社により滞納が認知され、②管理会社から理事会への報告がなされ、③(理事会の指示により)管理会社による督促がなされる、という流れになります。

 マンション管理に関する専門家が関与していない多くの理事会においては、理事よりも管理会社の方が督促ノウハウを持っている可能性が高いですから、短期間の督促に関しては、管理会社に任せてしまうのがよいでしょう。

 また、この間、管理会社に対しては、滞納者に対する管理費・修繕積立金の督促とともに、今後の回収手段を検討するための前提情報として、滞納理由や住宅ローンを含む他の債務を支払えているかを滞納者から聴き取ること、滞納者宅(専有部分)を訪問してもらい、生活状況の確認をすることも求めておくのがよいと考えます。

 管理会社が督促業務を行っている間の理事会での協議・決議事項としては、①何か月間支払いを待つか、②決めた期間支払が行われない場合の方針(理事で督促を続けるのか、訴訟その他の法的手続きを執るのか、その場合に弁護士に依頼するのか等)の2点になります。

 管理会社が督促対応をしない場合や、管理会社の対応期間を経過した場合には(遅くとも滞納開始から6か月以内)、理事会で協議の上、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。

 滞納管理費の請求訴訟やその他の法的手続きを専門家ではない理事長が行うのは難しいですし、訴訟をする必要があるか、する意味があるかについても理事会では判断が付かない可能性が高いためです。

2.法律相談

 管理会社が管理費等の督促を行ってくれる場合には、その督促が終わるタイミングまでに支払いが行われなければ、法的措置に向けて進みましょう。

 「金額が少ないうちに法的手続きを執ると、何度もやらなきゃいけなくなるかもしれないから煩雑じゃないか」と思われるかもしれませんが、何か月も管理費・修繕積立金を滞納する方は、滞納額が増えれば増えるほど全額の弁済が困難になります。

 また、賃貸住宅の家賃とは異なり、管理費・修繕積立金は滞納し続けても相当長期間にわたり住み続けられますから、管理費・修繕積立金よりも住宅ローンの支払いやその他の借入れ等の弁済に優先してお金を回してしまうことも十分あり得ます。

 そのため、管理費・修繕積立金については、時間が経てば経つほど回収は困難になると思っていただいた方がよいです。

 ただし、ここで重要になるのが、滞納者の滞納理由と生活状況です。滞納理由が一時的な経済状況の悪化である場合(管理費・修繕積立金だけを後回しにしているような場合)には、法的手続きでの回収可能性がありますから、速やかに法的手続きを執るべきです。

 他方で、管理費・修繕積立金以外の費用や借入も支払えておらず、生活状況も悪化している様子である場合には、訴訟で判決を得ても回収できない可能性がありますから、他の手段を検討する必要があります。

 これらの情報を管理会社に集めてもらい、弁護士にも伝えた上で相談していただく方がよいでしょう。

3.管理組合・理事会での意思決定

 管理会社の督促を経ても支払が行われない場合であっても、理事長が独断で法的手続きを執ることはできません(理事長が独断で弁護士に法律相談をすることはできますが、その費用を管理組合の管理費から支出するためには、①予算上の根拠と②理事会決議が必要です。)。

 標準管理規約に準拠した管理規約を備えた管理組合であれば、「理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。」(標準管理規約60条4項)といった定めが置かれていますので、理事会決議により理事長に対して未納の管理費等の請求訴訟等の授権をすることになります(標準管理規約54条1項7号)。

 ただし、弁護士に訴訟等を依頼するための予算上の根拠(例えば、「法的手続費用」や「専門家活用費用」として「50万円」といった予算の項目と金額)が総会にて認められていないと、管理費から費用を支出することができませんので、その点はご注意いただく必要があります。

 他方で、標準管理規約60条4項のような定めのない管理規約を備えた組合の場合には、理事会決議で訴訟等の授権をすることはできませんので、集会(総会)の決議で管理費等請求訴訟の原告となるための授権をしてもらう必要があります(区分所有法26条4項。この総会で、合わせて予算上の根拠設定(補正予算の編成)も行うのがよいでしょう。)。

 なお、管理規約に基づき理事会決議で理事長が訴訟提起をする場合には、訴訟提起をした旨(原告となった旨)を遅滞なく区分所有者(組合員)に通知しなければなりません(区分所有法26条5項)。

 また、下記の区分所有法59条の競売請求をする場合には、予めその対象となる区分所有者に対して弁明の機会を与える必要と、この請求をすることについて総会の特別決議が必要になります(区分所有法59条1項、2項、57条3項、58条2項)。

4.法的措置

① 通常訴訟

 まずは、通常の訴訟(民事裁判)の手続があります。

 民事裁判に要する時間は、被告(管理費・修繕積立金の滞納者)の対応によって大きく変わります。

 単純な未払管理費・修繕積立金の請求だけであれば、一番短く済むケースとしては、滞納者が答弁書(訴状に対する反論書)を提出せず、裁判の1回目の期日にも出頭しないケースです。

 この場合、裁判所は訴状記載の事実を被告(滞納者)が認めたものとして扱い、原則として1回目の裁判で終結します。そのため、訴訟提起から判決まで2か月程度で済むこともあります。

 また、管理費等の額に争いがなければ、長引くとしても、滞納者に支払意思と能力があり、和解協議をする場合です。この場合は、和解のために2~3回程度を費やしますので、和解の成立等の結論が出るまでに4~5か月を要する場合があります。

 他方、滞納者が管理費・修繕積立金の額等を争う場合には、多少時間がかかる可能性があります。

 例えば、滞納者側の主張として想定されるものとして、「管理費・修繕積立金の月額が違う」というものがあり得ますが、その場合は、総会議事録の提出等による立証を要する場合があります。

 また、総会議事録について決議要件を満たしていない等の反論をしてくることも一応想定でき、そういった反論がいくつもされると、時間がかかるということはあり得ます。

 裁判が長引いた際の注意点としては、「裁判中も管理費等の滞納が積み重なり続ける可能性がある」ということがあります。あまりに時間がかかる場合には、裁判の終結前に、請求の拡張(請求する管理費等の額の増額)をする必要が生じるかもしれません。

② 支払督促

 まず、裁判に代わる手段として、「支払督促」という手続きがあります。

 これは、簡易裁判所の裁判所書記官に対して申立てを行い、この裁判所書記官から相手方である債務者(管理費・修繕積立金の滞納者)に対し、金銭等の支払を命じる「支払督促」を送ってもらうというものです。

 この支払督促の送達を受けた債務者が、受け取った日から2週間以内に「督促異議の申立て」をしなかった場合には、債権者(管理組合)は、仮執行宣言の申立てをすることができ、これを受けて、裁判所書記官は仮執行宣言付きの支払督促を債務者に送達し、これを債務者が受け取ってから2週間以内に「督促異議の申立て」がなされなければ、債権者は「仮執行宣言付き支払督促」を用いて強制執行(差押え等)を行うことができるようになります。

 裁判手続きを経る必要がない点で簡便な手続ですが、債務者(滞納者)が「督促異議の申立て」をした場合には、通常の裁判手続に移行します。

 そのため、支払督促を利用する場合であっても、弁護士に相談の上、滞納者が「督促異議の申立て」をしそうであるか、通常の裁判手続に移行した場合にはどうするかも含めて検討をした方がよいでしょう。

③ 区分所有法7条に基づく先取特権の行使


 次に、マンション管理組合に特有の手続として、区分所有法7条に基づく先取特権の行使という方法があります。

 「先取特権」とは、当事者の合意や裁判によらずとも、特定の財産に対して優先的に債権回収をすることが認められている権利です。分かりやすいもので言えば、ある商品の売買で、商品は引き渡したのに代金を支払ってもらえない場合、売主は、裁判を起こすことなく、引き渡した商品を差押えて競売にかけて換価し代金を回収することができます。

 マンションの管理費・修繕積立金は、マンションの区分所有者全員のための費用であるため、区分所有法7条1項により、区分所有権(専有部分に対する権利)と建物(専有部分のみならず、共用部分も含みます。)に備え付けられた動産に対する先取特権が認められています。

 先取特権の行使は、競売の申立ての形で行います(抵当権の付いた不動産の競売と同様です。)。

 なお、先取特権の行使は、動産に対して先に行わなければならないこととなっていますので(民法335条1項)、当然に滞納者の専有部分を競売にかけることができるわけではありません。

 また、専有部分を競売にかけることができる場合であっても、専有部分に先に抵当権が設定されている場合には、管理費・修繕積立金の回収はこの抵当権に劣後しますし、専有部分の価値が抵当権が担保する債権(住宅ローン等)の額を下回る場合には、先取特権の行使により回収できるものはありませんので、「無剰余取消し」にて手続き終了となってしまいます。

 そのため、区分所有法7条に基づく先取特権の行使にあたっては、建物内の滞納者の動産の有無・内容や、専有部分に抵当権がついているかどうか等について確認をする必要があります。

④ 区分所有法59条に基づく競売請求

 また、これは裁判の一種ではありますが、間接的に管理費等を回収する方法として、区分所有法59条に基づく競売請求という方法があります。

 区分所有法59条は、元々、区分所有者の共同の利益に反する行為を行う区分所有者に対して、取りうる手段を全て取ったけれども奏功しない場合に、最終手段として追い出すための条文(追い出す方法として競売を使うもの)ですが、管理費・修繕積立金の長期かつ多額の滞納についても、この競売請求の対象となるとされています。

 通常の管理費等請求権に基づく区分所有権の競売(上記の区分所有法7条に基づく競売を含む。)の場合、住宅ローンを借りる際に設定された抵当権が優先するため、管理組合に配当される金額がないとして競売手続が取り消されてしまう可能性が高いのですが(無剰余取消)、区分所有法59条に基づく競売請求は、区分所有者を追い出す手段としての競売であるため、管理組合に配当される金額がなくとも取り消されることはありません。

 区分所有法59条を利用して滞納者の区分所有権が競売で落札されることにより、新しい区分所有者が現れることになりますが、この新しい区分所有者は、当然に、管理費・修繕積立金を滞納していた前の区分所有者の管理費等債務を引き継ぐことになっています(区分所有法8条)。

 そこで、管理組合は、その新しい区分所有者から前の区分所有者が滞納していた管理費・修繕積立金を回収する、ということになります。

 なお、この区分所有法59条に基づく競売請求をする場合には、管理費・修繕積立金の滞納が「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するか等について、双方が相当程度主張立証のやり取りをすることになる可能性が高いため、滞納期間や総額にもよりますが、競売を許可する判決が出るまで1年程度がかかるものと見込んでおいた方がよいでしょう。

⑤ 少額訴訟は利用しない!

 数か月の滞納であれば、滞納総額は十数万円程度であるため、「少額訴訟を利用できるのではないか?」と聞かれることがあります。

 しかし、少額訴訟の利用はお勧めしません。理由は次のとおりです。

 まず、少額訴訟は、被告(滞納者)が通常の訴訟への移行を求めた場合には通常訴訟に移行します。そのため、簡便な手続だと思い込んでいると、通常の裁判手続きの負担を負うことになる可能性があります。

 次に、少額訴訟は、1回の期日で終了し、その日に判決がなされます。そのため、その1回にすべての主張と証拠を出さなければならず、何かが抜けていても「次回持ってきます」はできません。その意味でも、一般の方が使うべき手続きではありません。

 また、少額訴訟は、原告(管理組合)が一括払いの判決を求めても、裁判所の判断で分割払いや支払猶予、遅延損害金の免除の判決がなされることがあります。

 さらに、少額訴訟は、判決に不服があっても控訴をすることができません。異議申し立てはできますが、もう一度簡易裁判所で判断され、その判決は言渡しと同時に確定するため、原則として不服申し立てができません。

 このように、少額訴訟は一般の方が「簡便な手続だ」と思って使うには危険な側面が多々ありますので、管理組合の滞納者に対する法的手続きとしても利用はお勧めしません。

5.まとめ

 以上のとおり、管理費・修繕積立金をしっかりと回収するためには、管理会社と専門家(弁護士)との連携が必要不可欠です。

 滞納者の状況や金額に応じて、取るべき(若しくは、取ることのできる)法的手段も変わってきます

 「管理会社に督促を任せてみたけど、うまくいかなかった…」という管理組合・理事会の皆様は、一度、マンション管理士・弁護士の渡邊涼平までご相談ください。